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ナダレ

Shinonome Nadare

概要

アルス王国の無法地帯こと、魔窟の13区で闇医者として開業している外科医。法外な治療費をふっかけるが、その腕は天才的に確かである。……ただし、ドラッグと酒が抜けてさえいれば。

プロフィール

血 族:鹿狼族
年 齢:39歳
誕生日:12月25日
身 長:197cm
体 格:長身で痩せぎす
口 調:雑で大雑把、やる気がない
「金がねェ奴ってのは、死体と一緒なんだよ。そのはした金で棺桶でもこさえるんだな。」
「ああなったら終いだ。俺は色んなクズの患者ってのを診てきたが、臆病風に吹かれたやつはもう二度と顔見せやしない。俺は心まで治してやれない。お前らはそうなるなよ。」
「ノエルは俺のご主人様なので……あ、いえ、間違えました! ウルトラかわいいノエルちゃんさま! が私めのご主人様でございますです、ハイ……」

外見描写

痩せた長身は細いというよりも薄く、背を丸めているせいか野暮ったく見える。癖毛の淡い茶髪は伸びすぎていてみすぼらしいし、ぱさぱさとして汚らしい。無精髭、落ち窪んだ目元の隈、肌理が荒い肌などなど、手入れのされていなさ、清潔感のなさが目につく。爪を噛む癖があり、大抵、爪は短くてズタズタ。
服装も大雑把で、着ていれば良いんだろうと言わんばかり。洗濯はされているものの、汚れが取れていなかろうが、擦り切れて穴が空いていようがあまり気にしていない。いつもコートを羽織って厚着でいるのは、ドラッグのせいで常に肌寒く感じているからだ。
鹿狼族の特徴として、耳は短い和毛に覆われてふわふわとしている。その毛に埋もれるように、小さなリングピアスが数個嵌められている。これは本人の趣味ではなくノエルによって付けられたものである。

性質

かつてはそれなりの倫理観を持って世界と向き合っていたのだろうが、今の彼は支離滅裂で無茶苦茶だ。死ぬことを怖れているが、生きることも同じぐらい怖れている。
ドラッグと深酒は彼にとって、緩慢な自殺に他ならない。このままではいけないと思いながら、患者から金をふんだくるのは、その購入費用に当てる為だ。金を払いさえすれば、彼は患者に真摯な対応をする。丁寧に治療を施し、優しい言葉で送り出してやることもある。
死んでいるものを治療することはできないため、死人に敬意を払うことはしない。精々、使えそうな臓器をいくつか選んで、然るべき業者に流す程度。
端的に言えば、ナダレは人間のクズなのである。

戦闘

一切不得手。
体力もなければ、自ら進んで銃の引鉄を引くような度胸もない。

ストーリー

・自堕落な生活を送っていたところに、突然ノエルが現れ殺されかかる。命乞いの結果生かしてもらうに至るが、代償としてノエルの家畜になった。
・ノエルと過ごすうちに、ノエルに対して執着を抱くようになる。それは恋心というには重過ぎて、愛と呼ぶには汚れ過ぎていた。だから、これはやはり執着でしかない。

Read More/それが嫌いだと思った
およそ虐待と呼ばれることは、ほとんど経験したに違いない。幼いナダレはそういう顔をしていた。この世に楽しいことなどひとつもなく、生きとし生けるもの全てをくだらないと嫌うような眼差しだった。
運良く福祉に繋がることができたこと、素晴らしい養父に恵まれた数年間は、ナダレの人生の最も素晴らしい部分だ。ナダレは心から養父に感謝して、病弱な彼に恩返しをしたいと願っていた。医療という道を志したのも、それがきっかけだった。
——戦争が全てを変えてしまった。
ナダレは従軍せねばならなかった。それから、態度の悪い上官から彼の患者を庇おうとしたせいで、前線に送られることになった。それでも使命として、ナダレはあれほどくだらないと感じていた人間を、敵味方問わず救おうとした。
結局、勝ちもせず負けもせず、ただお互いの人命を食い散らかして戦争は終わった。酷い有様だった。本当に、誰もがそう心から口にしていた。養父に救われたと思っていたナダレも、いつの間にかあの時の顔つきに戻っていた。そして、戦地から戻ったナダレを待っていたのは、養父の訃報であった。
以来ナダレは、生きる意味も理由も見出せずにいる。何もかもを嫌って、誰も自分を愛さないのだと嘯いている。そのくせ養父に申し訳が立たないから、自ら死を選ぶこともできない。常に何かに怯えているような素振りで、安心毛布を探し続けている。離脱症状の苦しみがどれだけの地獄か分かっていても、ナダレは生きるために、薬に手を出しては苦しむ。そして生きるために、薬を捨ててはそのことを後悔する。
ナダレが何より嫌い、憎んでいるのは、そんな馬鹿馬鹿しいことを繰り返す己自身だろう。
Read More/ピアス、あるいは楔
ナダレを家畜にするのだと宣言した竜種、ノエル。天使のような美貌を持ちながら、ノエルの言動はまるきり悪魔のそれだった。
——ナダレの人生は遅かれ早かれ詰んでいた。
人生の転落コースを真っ逆さまに滑落する、ルーチンワークの無間地獄だ。ノエルはそれを蹴り飛ばしぶち破り、ナダレの首根っこを捕まえる。それは優しさから差し伸べられた掌ではない。自分の所有物だからどう扱っても良い、どう扱うかは所有者である自分が決める。そういう掌だ。
「ナダレさんには家畜の自覚が足りないんだよなあ」
そうボヤいて、ノエルはナダレの耳に勝手にピアスの穴を開け、勝手にピアスを嵌めた。
家畜が耳につけるタグと同じだ。誰が所有し、誰がその生殺与奪の権を握っているのかを知らしめるものだ。契約の証であり、奴隷の刻印であり、ノエルとのつながりを確かに感じさせるものだ。
ノエルはそれを外さないようにナダレに言いつけたが、言いつけが無かったとしても、ナダレはそれを外しやしなかっただろう。
誰かに生命を握られ、ここに居ろと言われることは、ナダレがずっと欲しかったものに違いないからだ。それは酷く暴力的で、歪で、真っ当ではなかったが、確かにナダレの救いに違いなかった。

ノエル・ザ・ハイドラ

Noelle the Hydra

ノエルちゃん1
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概要

竜種の殺し屋で構成された組織、”猟竜”のメンバーのひとり。少女とも少年ともつかない可憐で幼気な容姿とは裏腹に、ノエルは組織のエースである。

プロフィール

血 族:竜種
年 齢:13歳
誕生日:12月25日
身 長:150cm前後
体 格:やや小柄で、少女らしい
口 調:無邪気な惨忍さ
「すごい! 初めて見た!! 本当に本物の命乞いだあ!! ねえ! おじさん本当になんでもする? じゃあボクの家畜になる!?」
「へぇ、ボクと戦う気なんだ。いいよ、片手間に相手してあげる。カップラーメン程度は持たせてよね。」

外見描写

誰もが振り返らずにはいられない、美少女然とした姿。
白く透明感のある肌は、頬や指先で柔らかく薄桃色に色づいている。
髪はつややかで瑞々しい、金色がかった若草色。アシンメトリーの前髪は右眼に被さるように長く、後ろ髪は短い。やや癖のある髪質で、ところどころ後毛がはみ出している様子さえ可愛らしい。
くっきりとした睫毛をあしらう、大きな目は目尻の位置がやや高い。瞳は毒のような、とろりとした蜂蜜色。まぎれもなく竜種だと証明をするかのように、その瞳孔は美貌にそぐわないほどの鋭さを湛えている。
小さく、それでいて鮮やかで形の良い唇からも、竜種らしく牙がこぼれて見える。本来は長いはずの耳は、猟犬のように外耳の一部を切り取られてあり、シンプルなピアスで飾られている。
しなやかで幼い肢体は、組織から与えられた硬質繊維の戦闘服に護られている。派手で明るいライムグリーンを好んで着て、足許はいつも高いピンヒールのブーツで包んでいる。

性質

ノエルの振る舞いは、実に年相応の少年少女らしい。
ただ、その全てに竜種の無茶苦茶な倫理観や、馬鹿馬鹿しいほどの身体能力が加味されているにすぎない。無邪気で愛らしく、惨忍で無慈悲で、気分屋で気まぐれ。自分が楽しいと思うことを好むが、何を楽しいと感じるかはその瞬間においてころころと切り替わる。自身の選択の結果がどうなるかを深く考えることはなく、気が向いたので/気が向かなかったので「そうする」。ノエルは130%気まぐれでできている。気まぐれの結果として自分が死ぬことになるとしても、ノエルは何も気に留めることはない。
そして自由気儘なノエルは、誰かに定義され、決めつけられることを嫌う。命令されることや拘束されることも嫌がる。仕事でなければ、上役や客の指示に従うこともないだろう。
それでも日々、指示を聞き任をこなすのは、殺しを好んでいるから、ではない。「プロだから」である。ノエルはノエルなりに、矜持を持って殺し屋を勤めている。生まれつきそうあれかしと定められたノエルにとっては、仕事は呼吸をするのと変わらない。

戦闘

仕事で殺す相手は、仕事なのだから遊ぶことはない。ノエルにとっては人類種の相手など、赤子と戯れるようなものだ。常に手を抜いていると言っても良いほど、ノエルは仕事で”本気を出す”ということがない。
携えた武装はパイルバンカーであり、ノエルの血を固め、杭として撃ち出す砲門となる。破壊力は有り余るほどあるものの、この武装は完全に過剰かつ、本当に余分である。戦闘機に戦車を牽かせるようなものだ。ノエル自身も、ポテトチップス専用トング程度に思っている。本気で戦う時には——そんな機会はまず滅多にないが、真っ先に投げ捨てて体を軽くするだろう。

ストーリー

  • とある仕事の中でナダレと出会う。ちょうどそのつまらない仕事に飽きていたノエルは、ナダレの命乞いをいたく気に入り、彼を「家畜」として飼うことに決めた。
  • 曲がりなりにも誓約を結んだ相手を、竜種が裏切ることはない。ノエルはナダレに一度も嘘をつかなかったし、約束したことは必ず守った。
  • やがて、組織にナダレの存在を気づかれ、ノエルは初めて自身の仕事と、他の何かを天秤にかけなければならなくなった。
  • 反故にしようと思えば、きっといつでもそうできた。それでもノエルがナダレを手放さなかったのは——縛られることを何より嫌うノエルが、誓約に縛られることを是としたのは。それは愛や恋やではなく、ノエルがそうしたいと思ったからだ。
  • その後、ノエルは猟竜の崩壊と共に姿を消す。ノエルは最後に「またね」とナダレに言った。それもきっと、嘘ではなかった。
Read More/ガラスの殻
ノエルは猟竜の長、ロゥベルの血を分けて造られた人工竜種である。
母親はそもそも無く、試験官から研究室へ生まれてきた。ノエルはそれを特別な事とか、不幸な事とか、そうは思っていない。周りにいる竜種はみんなそうだ、卵の殻の代わりに、ガラスに包まれて生まれてきた。それは事実であり、過去であり、今のノエル自身になんの関わりもない事だ。
ロゥベルには目をかけられていたが、だからといって愛情を注がれたわけではない。同類と同じように扱われ、同じように戦闘訓練を施され、研究素材として育ってきた。その事にも不満はない。世界は決まりきっていて、単調で、退屈でつまらないものだと知っていた。
だから、ナダレとの出会いがノエルの何かを変えるなんてことはちっともなかった。何もない出会いだった。何もなかったからこそ、それがノエルには特別だったのだ。
Read More/餞——帰るべき場所
猟竜という歪な、ひとりの男が作り出した幻想が潰えた日。
ノエルは思いの外、自身が動揺していることに気がついた。たかが帰る場所を無くしただけのことが、ひどく重い意味を持っているような気がした。
あの時、「そう」すれば良かったのかもしれない。
ナダレを頼り、側で暮らせば良かったのかもしれない。何もなかったかのように、ナダレとの日々を続けて。きっと、大切にしてくれたに違いない。文句を言いながらノエルの我儘を聞いて、時々ドラッグに手を出してはノエルに締められる。ナダレと、そんな暮らしができただろう。けれど、そうしなかった。ただ、ナダレの前から姿を消した。
……猟竜を取り戻すのだと彼らは言った。そのためには、ロゥベルの血を分けた竜が必要だと。捕えられたノエルは、「素材」として運用された。心核による再生が追いつかないように、定期的に身体の一部を切り刻まれる。それさえも感じなくなるほどに味気なく、くだらなくて、つまらなかった。囚われの身のノエルが、それでも生きることを諦めなかったのは——死ぬ事を承知でやれば一応は逃げ出せたろうに、そうしなかったのは。
ナダレと約束したからだ。またね、と。
ああ、だからどんなに嬉しかったことか。無惨にも銃弾の雨を浴びせられながら、明らかに致命傷を受けていながら、ナダレが自分の名前を叫んでくれたことが。自分に会うために、救い出すためにここまで来てくれたことが、本当に、本当に嬉しかった。ノエルがその生命の全てを賭けて戦った理由は、たったそれだけだった。
崩れゆく研究所の、冷たい床の上に座り込んで、膝に乗せた彼の茶髪を撫でる。それはとうに事切れた死体だけれど、ノエルには何よりも大切な贈り物だった。そして、何よりの餞別だった。

ヘーゼリッヒ

Gezellig

概要

まさしく、怠惰という言葉が服を着て歩いているような男。面倒を嫌うことは勿論、面倒を嫌うことさえ憂う。1日を一切動かずに過ごすなんて事は、彼にとってありふれたことだ。無論、身嗜み等には一切気を配らない。数少ない友人であるナダレはヘーゼリッヒを「肥溜めに浸した雑巾で牛乳拭いた匂い」「俺が麻薬犬でもヘーゼルのことは嗅がない」「ぶっちゃけ側に寄るのは苦行」等と評したことがある。

怠惰で怠慢でありながら、ヘーゼリッヒは彼の唯一の楽しみのためにどっこい何とか生きてきた。その楽しみというのは、つまり『死体』だ。これまで動いていたものが、何故だか動くのをやめてしまう。その奇妙なメカニズムに心惹かれ(というか、それ以外の事には一切心惹かれず)、ヘーゼリッヒは検死を生業とした。だがそこで問題が起きた——ヘーゼリッヒは死体(だけ)に欲情する男だったのだ。お楽しみのところを敢え無く発見されて失職し、現在は闇医者の端くれとして生活している。

性格、気質

極めつきの怠惰であり、生活習慣を改善する気など一切ない。たとえ髪がベタつき、フケだかなんだかよくわからないものを撒き散らしていても、歯がボロボロ抜け落ちていても、全く興味を抱かないし、他人がそんなことを気にする意味がわからない。(生きた)他人への興味は無いに等しい。

好きなもの、嫌いなもの

ヘーゼリッヒは怠惰を好んでいるが、勤勉を嫌ってはいない。己の興味や好奇心に対しては素直に向き合い、知識欲を満たすこともする。監察医として勤務できていたことはその実績とも言えよう。
死体を愛し、その秘密を暴くことを愛するヘーゼリッヒだが、ゾンビ映画等は嫌っている。動いたら死体じゃないじゃん……。

食べ物はゼリーがすき。飲めるから。

戦闘

戦力にはならないが、殺す価値がありそうだと思われることもないため、まず標的にならない。

価値観、死生観など

死は甘美な秘密であり、これまで動いていたものが突然に動きを止めるという謎を解き明かしたいと考えている。そのため、死因のはっきりした死体には興味を持たず、自ら殺すということもない。ヘーゼリッヒが愛しているのは死体という物質ではない。推理小説を愛しているのではなく、その書に記された謎そのものを愛している。でなければ、生来の無精を差し置いてまで働き、生きている意味がない。ヘーゼリッヒは正しく知の奴隷である。

生まれ

ごく一般的な中流家庭にて育ったため、何がきっかけでこうなったのかはよくわからないが、大抵の性癖はそういうものだ。

家族、対人関係

実家とは事件の折から疎遠である。 そもそも興味がなかったため、彼自身には縁を切られたという実感さえない。

・ナダレ
同業者で友人。なんやかんや面倒見が良いナダレは偶に訪ねてくることがあるが、ヘーゼルは一度もそれを真っ当に歓待したことはない。

プロフィール

血 族:緋人族
年 齢:30代
誕生日:不明
身 長:170cm程度
体 格:小柄で痩せている
口 調:殆ど喋らず、口を開けば気だるげ
「生きた人間に興味はないんだよ、帰ってくれないかい?」
「よくぞ聞いてくれました! ……いややっぱ察してくれない? 察しろ」

ストーリー

・ストーリー上重要なキャラクターとは言えず、目立った活躍もない。しかし、彼を友人として尋ねることは、ナダレの正気の部分を保つことに貢献しているだろう。

ナム・ヴォルフガング

Nam Wolfgang

概要

今を生きている、かつての死にたがり。
軍人のメンタルケアを行う職にあり、日々くたびれた軍人達の話し相手をして過ごしている。かつては大戦で隊付きの衛生兵として働いていたが、その大戦で左目、左腕、右脚を喪ったことで、戦場には出られなくなった。
そもそもナムが戦場へ行ったのは、その場で命を捨ててしまうためだったのだ。死は衆生の救いであると信じていた彼に突きつけられたのは、冷たい銃口でも冴え冴えした切っ先でもない。人を生かし、救わんとする。それを信念とする男、シノノメ・ナダレとの出会い。それこそ、ナムの人生を大きく変えたものだった。

性格、気質

理知的ではあるが、ダウナーな思考の持ち主である。必要以上にネガティヴな感情を抱くことは無いものの、ポジティブに物事を考えることができない。とはいえ、彼を生かしているのは信念である。なんとなく、だとか、どうせ、だとか、そんな曖昧な理由で彼は生きていない。生きることにも、死に焦がれるのも、ナムにはちゃんと理由がある。

好きなもの、嫌いなもの

嗜好品は酒より煙草を好み、甘いものよりは辛いものを好む。趣味らしい趣味もないが、人の話、人生の物語を聞く事は好きで、ある意味では仕事が趣味と言える。

昔はそれほど好まなかったが、大戦を経たナムは本を読むことが好きになった。読書は片手でも出来る、という事が何より大きい。

戦闘

大戦の折に交戦経験がある程度で、戦闘訓練等は特に受けていない。そもそもそのような状況に陥ったとして、ナムは生きていくために戦うという事がないだろう。

価値観、死生観など

死は安寧であり、救いである。生きるという事は地獄の淵を泳ぐようなもので、基本的には苦痛だ。より良く生きようとしなければ、より良く生きられる事はない。——これらの考え方はナムの中で非常に強固であり、幼い頃から強く実感していることでもある。
死がおそろしいと思った事は無いが、生きていくのがおそろしいと思った事はある。ではなぜ、もっと早くにひとりでにさっぱりと死んでしまわないのだろう。ナムは未だ、その答えを見つけられていない。ただ今は、自分が生きている事で救われる人がいるのだから、生きても死んでも変わりないなら、その人の為に生きようと思っているだけにすぎない。

生まれ

平凡な家庭に生まれたナムだが、物心つくより以前から母親共々、父親からの暴力に晒されてきた。母親は常に父親の暴力からナムを庇い、ナムを守ろうとした。泣いたり反抗したりすればするほど、父親の暴行は激化したため、ナムも母親も、ただじっと耐える事しか出来なかった。それでも殴られ、蹴られ、物を投げられ、ナムは母親が啜り泣きながら犯されているさまを目の前に見せつけられてきた。
それが日常と化して、長い時間が過ぎたある日。スクールから帰った少年ナムが見たのは、風呂場で手首を切って絶命している母親だった。降り注ぐシャワーの音が雨音のように甘かった。湯気は雲のように柔らかかった。数多の傷や火傷や痣を抱えていても、眠るように目を閉じた母は美しかった。微笑んでさえいた。ナムは死によって、母親が救われた事を理解した。
母親の死をきっかけに、父親が母子に施してきた暴力が明らかになった。ナムは保護され、父親と引き離された。しかしナムには、最早何の救いも必要が無かった。——人はいずれ皆死ぬ≪救われる≫のだから。

家族、対人関係

・ナダレ
元同僚で、親友で、恩人ではあるが、今は疎遠にしている。ナダレとの間柄は一言では割り切れない。平たく言えば、生きる理由1号である。

・アリエル
記憶を失った彼女に、最初は主治医というか、話し相手として接していた。今は生きる理由2号となった。

・ダレン
上司。お互いナダレの知己ではあるが、ナムとしては業務以上に関わった事は無い。

プロフィール

血 族:鹿狼系混血
年 齢:39歳
誕生日:早秋
身 長:180cmちょい
体 格:やや細いが健康的
口 調:ダウナーで斜に構えている

「死んだところで誰も気に留めやしない。なら、生きていたって誰も気に留めやしない。けど、生きてくれ、って奴はいる。なあ、それだけじゃ不満か?」
「はあ、まぁ、それがお前のしたい事ってんなら、俺が断る理由はないんだが……なぁ。あんまり人の事、困らせんなよ。」

ストーリー

・ナダレとは戦場で出会った。左眼と左腕と右脚を機関銃に撃ち抜かれたナムを、ナダレは何とか救い上げたが、ナム以外の誰も救えなかった。

・ナムは一命を取り留めたが、ナダレは精神を病み、薬に手を出してしまう。不本意とはいえ、死にものぐるいで自分を助けてくれたナダレに多少の感心を覚えたナムだったが、薬の事を知って激昂する。

・人を生かしておいて、自分は緩慢に死のうとするナダレの事が許せなかったが、ナダレの苦悩も分からないでは無かった。腹いせに死んでやろうかとも思ったが、おそらくナダレは再起不能になるだろう。それを思えば、ナムには生きる理由が出来てしまった。

・ナダレにナムの面倒見を頼まれたダレンは、ナムを本部のメンタルケア担当に据える。

・アリエルが鹵獲され、ナムの担当になる。

・アリエルの記憶を取り戻す旅に付き合い、彼女を見守り続けた。

・結局、ナムには死ぬ理由よりも生きる理由のほうが重くなってしまった。だらだらと悪態をついては長生きしてしまい、結局、一人娘に見守られながら穏やかに死を迎えたのは90歳を少し超えた頃のことだった。

カマロ・アルヴァルソン・ルカヤルヴィ

Camaro Alfarsson Rukajärvi

カマロ2
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概要

竜種の青年。音楽に傾倒しており、特にスラッシュメタルが好き。自分でもギターを弾くが、書く曲は主にプログレ。

プロフィール

血 族:竜種
年 齢:21歳
誕生日:夏の入り口のころ
身 長:183センチ
体 格:細っこい
口 調:やわらかく人懐こい
「ねえ、いっしょに来てくれない? 当方、ボーカル募集中。」
「わかるドラネスってマジでうるさいんだけどそこがいいんだよねギター抜きのスリーピースでKingsは5弦ベースっていうガチで意味わかんないの弾いててこの早弾きでベースなのにギターみたいな味わいが出ててTigerもほとんどスネアしか使ってないのにビートめちゃくちゃ正確でマジで機械なのみたいな所にJOExxxのこのシャウトよ神か?」

外見描写

短くふわっとした黒髪、陽のような金の瞳。竜種のため、耳は長く尖っている。肌は白く、名前も相まって北国の出を思わせる。華やかな見た目ではないが、朴訥な親しみやすさのある雰囲気。
民族調の草木柄の入った服装を好み、小物類は赤で揃える。イヤーマフ代わりにもしている、ヘッドホンを首に下げていることも。もちろんヘッドホンの色も赤。
指弾きでエレキギターを弾いているので、爪の保護を兼ねて赤くマニキュアをしている。細やかなところに気遣いが出るタイプのおしゃれさん。

性質

朗らかな陽のオタク。人によっては馴れ馴れしいと感じるかもしれないが、嫌味のない人懐こい態度。好きな物事には真っ直ぐで遠慮がない。特に音楽のこととなると煩く、語り出すと長く、早口になる。
DRÄDDIGÜN’S NEST(ドラディガンズ・ネスト/ドラネス)の大ファンであり、彼らに憧れて音楽を始めた。エレキギター(赤のフライングV)とアンプその他の機材には惜しげもなく金を使い、本人は安物の食事で済ませる音楽貧乏。

戦闘

竜種であるためフィジカルは高い。とはいえ、どうしてもと言われればケンカはできる、という程度のやる気。

ストーリー

  • ある事情でひとりで彷徨いていたエヴァグリーンと出会い、彼を自宅(ガレージ)へと迎え入れる。その目的は、自分とバンドを組んでボーカルをして欲しい、というものだった。
  • 音楽をはじめ、エヴァグリーンに種々の楽しみを与えた。エヴァグリーンの乗るバイク、パイルダーは元々カマロの愛車であった。
Read More/君の音を
聴力が優れているカマロは、足音や鼓動を感じて、それが誰のものか当てることもできる。音から色や形、情景を感じ取る共感覚も備えており、カマロにとってこの世界は激しい色彩の奔流であった。
カマロがヘッドホンを手放さないのは、そんな洪水のような世界から身を守るためでもある。聞き慣れた音源を懐に携えていれば、安心できる。それが激しい音源ならば尚更、カマロにはよい傘になった。彼がスラッシュメタルをはじめとしたハードロックを好むのはそういうわけもあった。もちろん、カマロはDRÄDDIGÜN’S NESTがスラッシュメタルだから好きなのではない。ドラネスがドラネスだから好きなのだ。
その日もカマロは食事を調達した帰り、ドラネスを耳元で響かせていた。嫌なことがあったからだ。それでも、多少の嫌なことは、音楽がいくらでも拭い去ってくれる。皮がベタベタに湿気ったブリトーばかりの毎日でも良い。最近作った曲はかなりいい出来になったと思う。あとは誰か、ここに歌を乗せてくれる人を見つけられれば言うことはない。なんて、自分には高望みだろうか。
Kingsの5弦ベースが最後の音を鳴らし、世界が少し静かになった時。ふと顔を上げたところに彼はいた。橋のたもと、苦々しげに川面を見つめていた。その心核は強く打って、強い怒りの音を滲ませている。カマロは耳元で再び流れ出そうとした音を止めた。もっと彼の音が聞きたいと思ったからだ。まさかこれほど、理想的な音を持った人がいるなんて思わなかった。それも今、目の前に!
自分の心核が急くのを必死で押し留める。そしてカマロは、逸る気持ちを抑えきれないままに——エヴァグリーンに声をかけたのだ。

エルドラド・ドゥ・ナスタヤーシャ・ヴィア・アマデウス3世

El-Drad du Nastoyashcia via Amadeus Third

概要

この世には2種類の人間がいる。金を使う者と、金に使われる者だ。しかし、彼はそのいずれでも無い。投資家エルドラド・ドゥ・ナスタヤーシャ・ヴィア・アマデウス3世。アマデウス家の3代目にして生まれついての大金持ち、おおよそ金に不自由などした事がなく、ゆえにこの世の全てに不自由した事がなく、金を使いも、金に使われもしない。

道楽的に楽観的に毎日を過ごしていたエルドラドは、ある日誘われたパーティで運命の人に出会った。美しく精悍な顔立ち、白金にきらきらと輝く髪、宝石のような碧い瞳。立ちのぼる色香に誘われるように、エルドラドは懐から小切手を取り出した。
「ペットになってくれないか?」
信じ難く度し難いその台詞を聞いたその運命の人——オルティ・クラヴィアドは驚きと怒りに唇を震わせ、限りなく低い地の底のような声で「嫌です」とだけ返した。
以後、エルドラドはオルティとの(腐れ)縁から(半ば強引に)クローバー貿易商会の(クソ)顧客となり、どうでもいい株価なぞを聞きに商会を訪れるようになったのであった。

性格、気質

朗らかで明るく、楽しく遊ぶことが好き。金に不自由もなければ、糸目をつける必要もないため、ポンポンと気前よく金を払い、豪快に豪放に遊びまくる。

——というのは表向きの顔であり、その性癖は捻じ曲がり歪み果てている。彼は己に好意を向けられる者に興味を抱かない。むしろ彼を拒絶し、嫌い、憎む者にこそ興味を惹かれ、好奇心を刺激され、股間を膨らませるのである。目下のところ、彼のその嗜好はオルティに向けられている。

好きなもの、嫌いなもの

オルティがエルドラドを嫌えば嫌うほど、エルドラドはオルティを愛し追い詰める。そうしてさらにオルティがエルドラドを嫌えば、ますますエルドラドはオルティを愛して可愛がる。それが本当に愛であるかどうか、そんなことにエルドラドは興味を持っていない。大切な事は、その獣がエルドラドを憎み、忌み嫌っているということだけだ。

エルドラドは愛してくれる誰かに対しては全く興味を持たないが、興味を持たないだけで嫌いはしない。嫌いなものといっても金でなんとかしてしまうため、特に悪感情を抱くということもない。面倒になれば金。これですべて解決なのだ。

戦闘

金の力で解決する。本人が直接戦うということは無いが、湯水のように金を突っ込んでくるので正面切って戦うのは非常に危険である。もちろん、金だけで誰かを黙らせるとか再起不能に追い込むとか、そういうことも大得意だ。

価値観、死生観など

エルドラドにとって、金に勝る価値を有したものはない。であるから、それを拒絶するのは彼の感性では考えられないことだ。もちろん他人の命も金で買えるので、命が金より重いと思ったこともない。

そのつもりはないがナルシストで自信家な側面もあるため、他人の名前を呼ぶとその人間が自分を好きになってしまうと思っている。他人のことは名前や ニックネームで呼ばずに「お花ちゃん」や「小鳥ちゃん」等と呼ぶ。

生まれ

アマデウスの1代目は醜男であったが、荒稼ぎした金で極上の美人を手に入れて妻にした。そうして生まれた2代目は父親への対抗心から、母親を上回る美人を探し、そして妻にした。エルドラドはその美人から生まれた一粒種であるため、2人の美女の美しさを受け継ぎ、人好きのするハンサムな顔立ちをしている。

家族、対人関係

・オルティ
手に入れたい相手。彼のことは「仔猫ちゃん」と呼んでいる。オルティからはガンガンに嫌われまくっているが、それが快感になっている。

プロフィール

血 族:緋人族
年 齢:32歳
誕生日:初夏
身 長:180cm前後
体 格:肉付きよく健康的
口 調:明るくあっけらかん

「君!!!俺のペットになってくれないか?」
「やっほー仔猫ちゃん!今日も可愛いね!」
「俺は思うがままに俺だった!その物語になんの後悔も恥じらいもないさ!だから俺はここで死んでもずっとずっとずっとずっとずうっと君を愛しているよ、オルティ!」

ストーリー

・「四ツ葉」ことクローバー貿易商会の重要な取引相手である。
・事あるごとに商会に絡み、オルティにちょっかいをかける。
・好事家としてフィラデルフィア号、もとい蒐集船イーデンに乗り込み、オルティとエヴァグリーンの前に立ちはだかった。

オルティ・クラヴィアド

Ortie Claviad

オルティ4
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概要

クローバー貿易商会、2代目会長。
情報屋として名高く、迅速かつ的確な仕事ぶりで知られるアルス裏社会の名士である。魔術師、あるいはクランの名から、四ツ葉の王と呼ばれる。

プロフィール

血 族:トヲラス系鹿狼族

年 齢:39歳

誕生日:晩秋
身 長:193cm
体 格:筋肉質、大きめ
口 調:知的ではっきりしている

「では、今後ともご贔屓に。」
「この国とトヲラスは、戦争をしたからな。だから、ここでトヲラス人が生きていくには、ただ敬虔に暮らすだけでは足りなかったんだ。」
「エヴァグリーン。俺にはお前が必要だ。」

外見描写

伽羅の如く艶やかな褐色の肌に、絢なる白金色の髪がふわりと降りる。柔らかな髪質の前髪をゆるく左右に分けている。後髪は短く、手入れの行き届いた様子。碧の瞳は花蜜に浸したように、その下弦だけが金色に染まっている。長く豊かな睫、真っ直ぐで凛々しい目鼻立ち、形良く、瑞々しい唇。眉や顎髭は整えられ、甘やかな顔立ちを引き締める役を果たしている。左の頬に向かい傷があり、それさえも彼の魅力を引き上げている。僅かに尖る耳には、小さな四ツ葉の耳飾りを供えている。
上品な仕立てのスリーピースはお作法通り。ハット、サングラス、ネクタイ、コート、革靴、手袋、どれを取っても一級の品であり、よく手入れされていることが一目で伺える。極め付けには甘く苦く、複雑な深みのある馨。全てが完璧で、静謐で、当たり前のようにそこにある。

性質

いつも和やかに笑っているが、眼光には怜悧さが宿る。常に組織の利益を優先し、それを最大にする方法を採ることができる。狡猾で計算高く、いざという時には残酷な選択肢さえ厭わない。
商人としても非常に手厳しく、柔らかい態度の傍ら、常に最善手を差し続ける。何ひとつ、誰ひとり信じていない。彼の微笑はそう語っている。
一方で、商会の仲間たちの前では明るく鷹揚に振る舞う。しっかりと全員に目を配り、よくそれぞれの働きを見ている。理想的な同僚、上司である。

戦闘

商会一かよわい男を自称している。
事実、彼は何ら超常的な力などは持たず、汚れることを嫌うために戦闘行為そのものを嫌う。
しかし、ひとたび敵に回せば情報戦、心理戦、経済戦といった机上の戦いに一通り苦しめられることだろう。策を弄するのは得意中の得意である。
ついでに殴り合いでもそれなりに強い。すぐに手榴弾を投げてくる。

ストーリー

・大国アルスに呑まれ、漂うことしかできないトヲラス人は大勢いる。「クローバー貿易商会」は、そんなトヲラス人たちに雇用を生み出し、食い扶持を与えるために有る。
・先代の四ツ葉であるトランが落命したことで、オルティはその王座を継いだ。以来、2代目会長として四ツ葉の屋台骨を支えている。
・自分を殺す命を帯びたエヴァグリーンに襲撃を受けたが、取引に持ち込み逆に彼を迎え入れた。以来、殺し屋とその標的は、奇妙な雇用関係を続けている。

Read More – オルティは、

——何ひとつ正解にできなかった。
オルティ・クラヴィアドはいつもそうだ。いつだって無力さに苛まれながら、血に濡れた手で不正解を拾い上げる。

彼の華やかな見た目は、いつも災いの元になった。誰しもが彼の容姿を褒めそやしたけれど、そこに居るオルティを見てはいなかった。三毛猫みたいだ、と彼は思う。偶々、珍しい色柄に生まれついただけ。それだけで、まるで特別な価値があるかのように扱われ、実際には何もないのだと知られては謗られる。それは屈辱であり、理不尽だった。

容姿だって。妹を喪った時だって。先代の四ツ葉を救えなかった時でさえも。オルティは、”正解”に流されてしまえば良かったのだろう。少なくとも、今よりは呼吸がしやすかったはずだ。そうして、平凡でありきたりな人生を過ごす道もあったはずだ。

それでも、オルティは蕁麻の帷子を編むことを望んだ。険しい道だと知っていながら、自分にはこれしかないのだと薄らと笑う。どうせ制限付きの命なのだから、有意義に使うべきだと嘯く。
それは、自嘲に他ならず。
理由にすら、なっていなかった。

Read More – タリーの死

彼の妹は殺された。
16歳になったばかりの頃だった。
他者からの暴力によって、ではない。妹、タリーは自ら命を絶った。そして、妹を追い詰めたのは、他ならぬ彼自身であった。

トヲラス人の有力な男は、妻を複数持つのが普通だ。だから、彼とタリーの血の繋がりは半分だけだ。彼の母は父の愛妾である第二夫人で、タリーの母が第一夫人であった。それでも、親の事情などどこ吹く風に、タリーは誰よりも彼に懐いた。彼もタリーを大切にして、目に入れても痛くないほどに可愛がった。

……タリーが暴漢に襲われた理由は、定かではなかった。
トヲラス人というだけかもしれない。偶然そこに居ただけなのかも。どのみち理由があろうがなかろうが、彼にとっては赦し得ぬ事だ。同じことだった。それでも、妹の命までは奪われなかったことを、彼らの女神に感謝した。
ところがタリーは、男性をひどく恐れるようになっていた。見ず知らずの者ばかりではなく、兄のことさえ怖がり、傍に寄らせようとしなかった。彼にとって妹の最後の印象は、自分を怖がって泣き喚き暴れる姿である。そして、その現実に最も深く傷ついたのは、彼ではなくタリー自身であった。
タリーは兄を慕い、家族として愛していた。自分でも制御できない心と体の違和感が、彼女には耐え難かったのだ。だから、彼女は”殺された”のだった。ただひとつ、彼女が必至で暴行相手からもぎ取った、IDカードだけを形見にして。

彼は家族と縁を切り、キャリアも何もかもを投げ捨て、裏社会に身を置いた。IDカードの持ち主を探すために。
そしてそれが、オルティという男の始まりでもあった。

Read More – 四ツ葉の王

クローバー貿易商会、通称四ツ葉。アルス王国の中にありながら、トヲラス人のために在る城砦。
オルティは、先代四ツ葉ことトランの死によって、その玉座に座った2代目だ。

トランは、オルティが商会に身を寄せた目的を、復讐であると知っていた。それを止めさせることはしなかったけれど、彼の危うさもよく理解していた。だから、四ツ葉をオルティに継がせたのは、彼の親心であったと言える。つまり、いざ復讐を果たしてしまった時にも、オルティに拠所があるように。帰るべき場所を与えるために。

オルティは、自身のそうした脆さや危うさにひどく無自覚だ。後先を考えていないのではない。後先まで理路整然と考えたうえで、自身のことは二の次にしている。それは、多くの人々にとって理解し難い事だろう。特にエヴァグリーンには理解できないことだった。エヴァグリーンには自分の生命、生活以上に大切なことなど無い。ましてや他人のために疲弊して、押し潰されそうになるなんて。愚か以外の何者でもない。

そんなもの、王の器などではない。王亡き後の玉座にて、王を演じるだけの道化でしかない。
こんなに何もかもが嘘ばかりの人間を、エヴァグリーンは果たして見たことがなかった。否、それは嘘ですらなかった。オルティが欺いているものがあるとするなら、それはオルティ自身だからだ。だから、丁寧に嘘を剥がした末に、オルティという人間はどこにもいない。ただ柔らかく、静かに呼吸するだけの誰かの横顔がそこにあるだけだった。

それを暴いてしまったからなのか、それとも別の理由か。ともかくエヴァグリーンはその傍らを、決して離れようとはしなかった。
それは、死が二人を分つまで。

白狼のロータス

Lotus the Managarmr

概要

クローバー貿易商会の執行部長。兼、会計、書記担当、兼、オルティの運転手、兼、お茶汲み、兼、……要するにオルティの右腕的存在。そのオルティとは、義兄弟の契りを結んだ間柄でもある。

プロフィール

血 族:トヲラス系鹿狼族
年 齢:39歳
誕生日:早春
身 長:188cm
体 格:やや肉づきのいい、筋肉質の体型
口 調:目上の人には敬語調。優しげ。

「オルティさん、そろそろコーヒーぐらい自分で淹れられるようになってくださいよ。」
「わかってんですよ! オルティさんはすごいの! そんなの俺がいっっちばんわかってんですよ!」

外見描写

健康的な浅黒い肌。くりくりした丸い目は陽の元で赤く輝く。人懐こく、笑顔が多い。人好きのする、表情豊かな童顔丸顔。
硬い髪質の白髪は、前後ろを短く切り揃え、揉み上げをやや長く伸ばしてある。
うっすらと脂肪の乗った筋肉はしっとりと厚く、本人曰く「気を遣っている」腹周りはベルトがややキツい。骨格からして太い恵体で、特に肩周りはがっしりとしている。オーダーメイドのシャツでなければ袖を通らないほど。
ドレスシャツ、ベスト、スラックスの装いが多いが、きっちりと着ていることは稀。お気に入りのハットはオルティと同じブランドの品。いつも尻ポケットに長財布を差して、ウォレットチェーンを垂らしている。が、これはオルティから下品だと咎められている。

性質

好き嫌いがはっきりしていて、露骨に顔に出る。良く言えば素直な性格。
嘘がつけないタイプだが、それが最善だと信じた時には、心を殺してでも嘘をつき通す芯の強さもある。明るくポジティブで、ヌケている所が目立つため、他人からは能天気な馬鹿だと思われがち。能天気はあながち外してもいない。
一途で一本気な人柄でもあり、一度従うと決めた主人を裏切ることはない。現在、その主人とはオルティであり、他の誰の下につく心算もない。
クローバー貿易商会のメンバーは彼にとっては家族も同然であり、命を賭しても守り抜くと心に決めている。

戦闘

基本的には徒手格闘。ストリート仕込みの喧嘩拳法で、体格を活かすパワータイプ。
かつては『サンドラの白狼』と呼ばれ狂犬として恐れられていたが、オルティの下についてからは牙が抜けたように大人しくなった。その事を揶揄して『眠り狼』と呼ぶ者もある。事実、激昂した時など、今でも白狼の地金を見せる事はある。白狼は死せず、ただ雌伏するのみ。

ストーリー

・オルティの右腕。控えめに花を添える存在。
・オルティが病を理由に隠遁した後、必死になってオルティの行方を捜したが、二度と会うことは出来なかった。
・クローバー貿易商会会長代理となり、死ぬまで頑なに代理と名乗り続けた。

Read More – サンドラの白狼

ロータスはアルスの娼婦街で、とあるトヲラス人娼婦の元に生まれた。
母は商売女ではあったが、息子を溺愛し、愛情と金をかけて育てた。そのため、ロータスは貧民街の出でありながらも、それなりの読み書きや算術を習得している。母とその周りの娼婦たちはロータスを皆で可愛がり、ロータスも彼女たちに懐いた。今でも女性の扱いがそれなりに上手いのは、彼女たちのおかげであろう。たっぷりと愛情をかけてもらったぶん、ロータスは愛情深く、義理に厚い男に成長した。

母が亡くなった後も、ロータスは娼婦街で用心棒の真似事をして暮らしていた。あるとき客から、本当にロータスを用心棒として雇いたいと申し出があった。それをきっかけに、彼は本格的に裏社会の人間として生活し始める。
ロータスは義理堅い男だ。だから、雇い主がロータスをどう扱っても、一度仕えると決めた以上は従った。理不尽だと感じることもあった。嫌な仕事を押し付けられることも。それでも必死に努力した。飼い犬がそうであるように、ロータスは主人に選ばれる側であり、主人を選ぶ側ではなかったから。やがて彼は、主人が拠点としていたサンドラ通りの名を借りて、サンドラの白狼と呼ばれるようになった。かの狂犬が控えていると聞けば、誰もが彼の主人に頭を下げた。彼はいい気にはならなかったが、二つ名を与えられる程度には、一端の仕事ができる男になったのだと感じていた。

だから、その青年が——若かりし、王となる以前のオルティ・クラヴィアドが乗り込んできた時も、馬鹿なのだろうと思った。自分はサンドラの白狼で、主人はそれを従えているのに。彼ら、クローバー貿易商会と主人の間で何の交渉が決裂したのかなど、ロータスは知りはしない。ただ命じられたまま、叩き潰せと言われたまま、犬のように戦った。

オルティは強く、何より諦めが悪かった。その碧い瞳は明確な目的を見据えていて、表情は確信に満ちていた。ロータスは動揺する。なぜ彼がそんな態度でいられるのかわからなかった。自分と対峙し、なぜまだ立っていられるのかわからなかった。血の混じった唾を吐き捨て、ロータスは彼をじっと見据えた。

「あんたの名前を聞きたい」

単なる質問ではない。サンドラの白狼、かの狂犬が、斃すべき相手に興味を抱いたのだ。
それはロータスが単なる犬に徹していられない、ひとりの人間であることを明白にした。人として向き合いたい相手と、遂に出会った瞬間だった。

Read More – ロータスの朝は早い

起きてすぐ、身支度を整える。
彼の主人であるオルティは身なりにうるさい。シャツに皺でもつけていれば、朝から小言を食らう羽目になる。
そのオルティに電話をしたら、彼を迎えに車を出す。無論、このとき車の中にファストフードの食べカスなどは一切残してはならない。一日中文句を言われる。何せこのバカみたいな改造を施されたクラシック・カーの所有者はオルティである。

オルティを事務所まで送り届け、彼のためにコーヒーを淹れる。それを少しもらって、次は朝市へ向かう。市場の見回りは、商会の仕事とロータスの趣味を兼ねている。つまり、やっと朝飯にありつける。

ロータスはこの光景が好きだ。
開いたばかりの市場はまだ静かだ。大きな獣がゆっくりと身を起こしているようで、まだ眠たげな顔もちらほらあって。人の生活、息吹を感じられる。悪ガキに見つかり、追いかけっこの相手をするのも楽しい。食堂で、老婆の話を聞くのも面白い。若い店主が、自慢の逸品を勧めてくれるのも嬉しい。その誰もが、ロータスを「ロータス」と呼んでくれる。

見回りを終えて、事務所へ戻る。その頃には続々と社員が出勤してくる。そのひとりひとりに挨拶をして、それぞれと言葉を交わす。彼らだって、誰もロータスを「サンドラの白狼」だなんて呼ばない。
書類仕事も苦ではないし、雑務だってやりがいがある。放っておくと昼飯を抜くオルティを連れ出して軽食を摂らせ、午後はまた外回りだ。そうしてロータスの一日は眩く過ぎる。

……夜、目をつけていた女性にオルティのことを話す。話しすぎる。「もうそのオルティって人と付き合えば!?」とビンタされ振られる。それも、ロータスの日常。ありふれた、人間の日常だ。

変幻自在のサダルメリク

Sadalmelik the Shape-Sifter

概要

サダルメリクとは怪物の諱である。それは自在にその姿を変える能力を持ち、潜入や陽動といった仕事をする。そして、それはクローバー貿易商会の切り札であり、その事を誰も知り得ない。

プロフィール

血 族:不明
年 齢:不明(見た目3、40代)
誕生日:不明
身 長:概ね168cm
体 格:瘦せぎす
口 調:おっとり系、平仮名多め

「すごいなあ、そんなこともできるんだ」
「だめだよ。絶対にだめだ。君は僕みたいになっちゃいけない。」

外見描写

それが「サダルメリク」という姿を取る時、彼はどこにでもいるような、これといって目立った特徴のないトヲラス人として振る舞う。
褐色の肌、淡く紫がかった、柔らかい癖毛。まばらに無精髭を生やし、穏やかな眼をしている。眼尻が緩く下がる形で、厚ぼったい瞼に長い睫毛が乗っている。瞳は色が淡く、強膜に近い色をしている。アンダーリムの眼鏡を乗せるようにかけている。全体的にどことなく無造作でふわふわとしていて、良く言えばナチュラルな印象。人の印象に残り難い雰囲気がある。

性質

サダルメリクの能力は、不死者として死を超克した祭に、自身の個性を失ったことで発現したものである。
サダルメリクを観測する者の認識の違いによって、その精度や特性が変化する。例えば、サダルメリクを怪物だと思っている人の前では、怪物に変化する。その見た目や特徴は、観測者の認識(例:長い触手と翼のある怪物)に近い、サダルメリクが過去に観察したことのあるもの(例:頭足類や鳥類)を融合させて表現される。どちらが優先されるかは時と状況にもよるが、本人の想像力で変化することは極めて困難である。
とはいえ、サダルメリクという個人でいる間は、ただのほんのり天然系の中年男性にすぎない。温和で争いを好まず、ふわふわと笑っている。
変身中は、その深度にもよるが、変身した相手の性格や気質を模倣する。素のサダルメリクとは真逆のような人格を持つ人物に変身しても、精度が低ければサダルメリクの性格がベースにある。変身の精度が高ければ高いほど、変身した相手の人格に引っ張られ、サダルメリクに戻ることが容易でなくなっていく。

戦闘

不死者であるため、他者の生命に干渉することは許されていない。故にサダルメリクは直接、誰かを殺すような戦い方はできない。どうしても武力が必要な場合は、誰かの姿を借りて戦うが、やはり殺す事はできない。
不死の特性ゆえに死にはしないので、肉壁を買って出る事はあるが、余程の困窮した状況に限られる。

ストーリー

・『人を食う怪物』として飼育されているところをオルティ、ロータスに発見される。もちろん戦闘になったが、彼の特性を見抜いたオルティに無害で平凡な個性を与えられて鎮圧された。
・その後、普通の人として生活できるように、『サダルメリク』の個性と、それを手帳に書き留める方法が考案され、クローバー貿易商会の一員となる。
・人手不足の商会のため、潜入、諜報要員として使ってくれと言いだした。オルティは反対したが、最終的にはそれがサダルメリクの仕事になった。
・オルティの死後、自己認識が壊れてしまい『サダルメリク』を失う。それからの物語は、誰も知らない。

Read More – 穏やかな夢を

黒い表紙の手帳をぱらぱらと捲る。
それは彼にとっての宝物だ。”サダルメリク”がどういう人物かを書き留めてある。どんな時も、そのページや情報のひとつひとつをなぞっていれば、何か安心できた。

彼は、”サダルメリク”以前の彼を覚えていない。
どこでどうやって暮らしていたかも定かではない。今だって、自分は”サダルメリク”という個人なのだと強く思い込むことで存在しているようなものだ。彼を形作ったオルティが同じように強く思い込み、認識しているからこそ存在できている。もしも、”サダルメリク”を深く知っている人が誰もいなくなれば。その時はきっと、誰でもない怪物になるだけだ。だから、”サダルメリク”の前もきっとそうだったのだろう。

ああ、良かった。
それは、個性を焼き、不死へと堕ちた者には不釣り合いな思考であった——彼は、きっと”サダルメリク”のまま死ぬことができるだろう。この期間限定の愛らしく、儚い人格を惜しむだけの時間はあるだろう。やがて誰も”サダルメリク”を思い出せなくなり、やがて彼自身もそれを忘れるだろう。微睡むままに消えていけるだろう。

そう願う。この心を残したまま生き続けるより、そのほうがきっと、ずっと痛まずに済むはずだから。

エヴァグリーン・イヴリス

Evagreen Ivris

概要

クローバー貿易商会に出入りしている竜種の青年。殺し屋として、商会会長オルティ直々に雇われている。

プロフィール

血 族:竜種
年 齢:20代
誕生日:不明
身 長:168cm(ブーツ込み174cm)
体 格:痩身、筋肉質、しなやか
口 調:粗暴

「……クソ不味いなァ、このコーヒー。」
「ッだが……! 俺は竜って獣だ! ——たとえこの頭だけになっても!! 俺は俺の魂を賭けて、お前を殺してやる……!!」

外見描写

健康的で鮮やかな褐色の肌に、夏草もかくやの鋭さで乗っかった、鬣のように逆立つ深緑の髪。
重たい前髪の下で、黒いはずの瞳がぎらぎらと光る。切長で目尻の位置が高い眼差し、長く先端が尖る耳、唇からわずかに覗く牙はいかにも竜種然としている。
表情は豊かなほうで、笑っていれば年齢よりも一層幼く見える顔立ち。服装も常にラフで、小柄な事も相まって一見すれば不良少年である。
とても身なりが良いとは言えないが、本人の好みに拠ったスタイルを貫く。見た目に殺し屋らしいか、と言われれば全くである。

性質

荒っぽく好戦的で、負けず嫌い。
口より先に手が出て脚が出る。しっかりと殴り飛ばした後で「お前ムカつくんだよ!」と叫ぶタイプ。頭は悪くない、だが考えもしない。それは判断の早さ、瞬発力に思考速度が追いつかないせいでもある。そして、一度考え始めると、どうしたって嫌なことまで思い出す。嫌なことも考えなくてはいけなくなる。エヴァグリーンはそれを嫌うのだ。
意外にも面倒見は良く、兄貴肌。特に、仲間と認識した相手には甘い。他人の面倒を見ることは、エヴァグリーンに自分の存在を真っ当に認識させてくれる。本人にその自覚はないのだろうが。
然り、生来孤独であったが故に、エヴァグリーンは真っ当なコミュニケーションの段階を踏んでこない。「そうしたい」が先に立ち、「どうするか」は後で来る。殴りたいから殴るし、側にいたいから付き添う。ある意味分かりやすい。

戦闘

敏捷にして重撃。その拳は風を切り、剣脚は大地を割く。有り体に言えば馬鹿力。戦法もかなり無茶苦茶で、駆け寄って潰すを繰り返すのがほとんどだ。そして、竜種であるからそれだけで十二分に強い。人類種はおおよそ敵ではなく、エヴァグリーンにとっては「つまらない相手」以外の何者でもない。故にほとんど無自覚に、舐めてかかる。そのせいで手痛い反撃を食ったこともある。
しかし、大味な闘い方は消耗が激しく、また見切ることも容易い。故に搦手を得意とする相手には弱い。そして、同類である竜種を相手にすることもまた難しい。単純に力が互角なら、勝敗を分けるのはその技に他ならないからだ。


ストーリー

・殺し屋としてオルティを襲撃するが、逆に捻じ伏せられ取引をすることになった。オルティを殺さない代わりに、ある艦の情報を提供される約束で。
・当初はオルティの持つ情報だけが目当てであった。それはオルティの側も同じである。エヴァグリーンは自分がただの武力、武装として扱われていることを理解していた。必要とされているなら、別にそれで良かったからだ。
・オルティとの取引関係は艦を潰したことで終了したのだが、オルティを殺すことはせず、相棒でいることを選んだ。それは選ばれるだけのエヴァグリーンが、初めて自分から選んだ居場所だった。

Read More – 蒐集戦艦

その竜は、とある『艦』の上で生まれた。
生まれたばかりの幼い竜は、そこが大きな戦艦の上であるとは知る由もなかった。その上に作り上げられたパノラマ的な大地を、世界のすべてだと信じていた。偽物の世界の中で、おだやかな日々が過ぎていく。

ある日、竜は艦を”降ろされる”ことになった。蒐集戦艦イーデン。その名の通り、艦は楽園を模した趣味の悪い箱庭だった。竜はただ、価値がないと見なされたのだ。

廃棄される瞬間に、それが世界ではなかったことを知った。冷たい海の中で、竜はその艦の姿を確かに見た。薄れる意識の中に強い嫌悪と怒りの火種を灯し、艦は何処かへ去って行った。

——エヴァグリーンという名は、「福音の若木」を意味する。
竜種は、自らがどこで生まれたものか、どこから来たものかを表す名を己で名乗る。楽園から捨てられた彼は、自らをやがて楽園へ還る者として、そう定義した。すなわち彼はその時から、蒐集戦艦への復讐を誓ったのである。

Read More – 一杯の珈琲

「俺にはお前が必要だ、エヴァグリーン」

そんな言葉で絆されたつもりはなかった。けれど、必要とされることは気分が良かった。
泥水のような、不味いコーヒーを流し込む。誰かを殺してこいという単純な仕事をこなす。それだって人生だ。けれど、生きている気はしなかった。

オルティの執務室は、コーヒーの芳香がした。
何かこだわりがあるのだろうと思ったけれど、オルティはミルクと砂糖を馬鹿みたいに混ぜて飲んでいた。こだわりを持ってコーヒーを淹れていたのは、彼の右腕であるロータスだった。ロータスがその無法に涙を飲んでいると知ったのは、もっと後になってからだ。

仕事だってそうだ。オルティはエヴァグリーンを使い走りにして、あれこれ何でもやらせたがった。そんな毎日は鮮やかで煩くて、鬱陶しいほど眩しかった。
考えるのは得意じゃない。それはいつも、自分がなぜ今も生き続けているのかという疑問に帰結する。竜種は生きる意味を失えば、世界に興味を失くし、いずれは死ぬ。だから、自分が生き続けているのは、きっとこの胸の奥底に、復讐を願う気持ちがあり続けているからだ。そう信じる。そう信じなければ、何のために生きているのか分からなくなる。

——わからない。何のために生きているのか。

必要だと言われた。請われた。それを理由にしても良いのかもしれないと、そう思い始めたエヴァグリーンの前で。オルティはあっさりと、自分の命を手放す決断をした。クソッタレが、ふざけんな、馬鹿じゃねえの。馬鹿だとはずっと思ってたが、ここまでかよ、いい加減にしろよ。そんな言葉は何ひとつ、エヴァグリーンの唇を通らなかった。オルティの腕を強く掴む。そのまま駆け出したエヴァグリーンは、叫ぶようにただ、それだけを言った。

「俺にはお前が必要だ、オルティ!!」

ふたりで事務所に戻った後、オルティは黙ってコーヒーを淹れた。
それはお世辞にも美味いとは言えず、泥水のようなひどい味だった。

けれど、人生でいちばんのコーヒーだったと、エヴァグリーンはそう信じている。

メリーラム

Merrylamb

概要

クローバー貿易商会の雑務担当。清掃やお茶汲みから、口を割らない相手の拷問まで、何でも卒なくこなす。

プロフィール

血 族:トヲラス系鹿狼族
年 齢:不詳(20代?)
誕生日:不明
身 長:160cm+ハイヒール
体 格:Jカップ
口 調:眠たげな、媚びた女の調子

「あ、もしかして期待してる感じですかぁ。残念ですけどぉ、えっちなことはしないんですよぉ。」
「そういうのいいんで。情報だけちゃっちゃと吐いてもらえますかぁ?」

外見描写

艶やかで瑞々しい褐色の肌、長く豊かな淡い色の髪。髪は少し癖があり、色味は灰色がかっているが、光に当たれば緑色を帯びても見える。それはなめらかな天鵞絨のようにさらさらと、美しく色合いを変えるのである。その髪を、大抵は後頭部でひとつに束ねている。
やや目尻で下がる眉と、長いまつ毛に縁取られた眼はどこか気の抜けた風体である。明るい琥珀のような、あるいは暗い黄金のような色の瞳もどこか眠たげで、眼差しには鋭さがない。主張しない鼻筋、小さくてぽってりとした、開き気味の唇も男好きのする印象。そんな見た目と口調に依らず、意外なほどに話す内容はきっぱり、さっぱりとしている。
そして、どうしても豊満なバストが目を引く。メリーラムはいつも、その柔らかく大きな水風船のような褐色の膨らみを見せつけ、強調する服を選ぶのだ。大抵は下着すらまともに身につけておらず、いわゆる裸エプロンのようなスタイルである。ホワイトブリムを頭に乗せ、奇妙な小間使いとしてメリーラムはそこに居る。

性質

メリーラムは、取り立てて殺しが好きだとか、断末魔が好きだとか、そういう性癖を抱えているわけではない。単純に、仕事だからそうしているだけだ。
標的を拷問し、ありとあらゆる責苦を与え、生かさず殺さず全力で嬲り搾る。仕事だとはっきり認識しているため、遊んだり、不用意に殺したり、逆に延命させたりすることはしない。見かけよりもメリーラムは、線引きがしっかりしているほうだ。
スクールには通えなかったが、勉強には熱心。仕事のためになる医学には特に興味がある。単純な読み書きや計算をロータスから教わっている。

戦闘

闘うのは不得意。メリーラムの技術はあくまで、甚振ることに特化したものである。

ストーリー

・商会に救われ、初めは秘書として雇われる予定だった。しかし読み書きが出来ないことを不安に思い、メリーラムから辞退。
・その後、オルティが潔癖気味であること、商会には汚れ仕事をできる者が居ないことを知る。それならばと汚れ役を引き受け、今に至る。

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メリーラムは、腹の中で育っていくその生命が恐ろしかった。
アルスに暮らすトヲラス人が、娼館の生まれであることは珍しいことではない。トヲラス人、あるいはその血を引いている女が生計を建てるために、それよりも稼げる仕事は無いからだ。そして、激化した市場競争は特殊な性行為の提供へと偏っていく。

だからメリーラムも、その凡例のひとつに過ぎない。
初潮よりも先に妊娠した彼女は、何度も腹の子に語りかけた。産まれてきてはだめ、ずっとそこに居て。それが叶う訳もないと知りながら。
無事に産まれたとしても、この子は自分と同じように慰み物になるだけだ。そして、彼らにはこの子を無事に産まれさせる気がないと、薄々勘付いてもいた。

——思い出したくもない。けれど忘れられることもなく、それはずっと頭の片隅にある。
腹を割かれ、産声ひとつあげずに取り上げられた我が子。真っ赤に濡れた小さな命。唇に押し込まれる肉の味。生臭く、鉄臭く。嫌悪感と拒絶が胃液と共に遡る、その味。その味だけが、ずっと舌の上にあるような気がする。

以来メリーラムは、物を食べても何の味わいも感じられなくなった。その記憶を上書きすることも叶わないままに、ずっと。

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「なるべく傷の残らないようにしてやってくれ」

医者らしい男が呆れたように肩をすくめる。彼は外科医ではあるが、美容にはとんと疎いらしい。頼む相手が違うだろ、と呟く彼は、積み上げられた札束に目の色を変えた。

「まあ、やれるだけやってみる。……ったく、とんだ誕生日だ。」

メリーラムの意識は、そこで一度途切れた。
微睡みながら、夢を見た。
店が潰れたこと。ろくに稼げなかったこと。どこかのヤクザ者たちの縄張りに入り込んでしまったこと。ひどい暴行を受けて稼ぎを持っていかれたこと。

今度こそ本当に死ぬのだと思った。あの時、我が子の一部を口にした時、メリーラムの心は死んだ。けれど身体は味覚を失っただけで、未だ図々しくも動き続けている。悲しいだけでは人は死なないのだと、メリーラムに突きつけるように。けれど、今度の今度は本当に、死ぬのだと思った。
あまり、怖いとは思わなかった。けれど、あの子の命を喰らっておいて、少しも長く生きられなかった。ぼんやりと、それが悔しいような気がした。

気づけば、ぐったりと横たわった重い身体を、誰かがじっと見下ろしていた。メリーラムがまだ息をしていると知り、彼は泥と血でぐしゃぐしゃの、殆ど死体のようなメリーラムを抱き上げた。高価そうなコートを脱いで、メリーラムの肌を優しく包んだ。冷たい雪の中、薄く曇った暗い光が、彼の白金色の髪を照らしていた。悼むように目を閉じた彼は、君を必ず助ける、と呟いた。

しんしんと白く眩しい夢。苦く甘く、馥郁とした香に包まれた夢。

——オルティは煙草を咥えて、何も理由を説明しなかった。
だから目を覚ましたメリーラムも、何も聞かなかった。この味気ない世界で生き直す理由など、メリーラムは求めなかった。ただほんの少しだけ、彼の力になりたいと思った、ような気がしたから。

アルシァラ・アル・ヤマニア

Alsheara Al Yamania

概要

クローバー貿易商会の外商、すなわち外周り営業を務める、トヲラス人の若者。商会の「商社としての」部分を担い、顧客と連絡を取ったり、仕入れに当たったりするのが仕事。また、トヲラス人の中で特別な地位にある「天狗」である。

プロフィール

血 族:トヲラス系鹿狼族
年 齢:28歳
誕生日:晩冬
身 長:177cm
体 格:痩身・小柄
口 調:尊大、偉そう

「まあ、このぐらいは当然だろ。俺ってホラ、よく出来るからさ。」
「どいつもこいつもオルティさんオルティさんって。馬ッ鹿じゃねぇの? お前らって自我とかないわけ?」

外見描写

黒に近い暗褐色の肌に、灰色がかった白髪がしっとりとかかる。髪は柔らかな癖がついていて、よく手入れされて艶めいている。自信たっぷりに釣り上がったアーモンド型の目、長くしっかりとした睫毛。青い宝石のような瞳は鋭く眩しい。白いダブルのスーツを纏い、いつも胸を張っている。
トヲラス天狗である彼の背中には、燃えるような緋色の翼が、堂々たる三対六枚開いている。その翼は畳んで仕舞うこともできるものだが、アルシァラは好んでそうしている。

性質

他人を見下し、敬わない。嫌な事があると直ぐに顔に出し、不機嫌になる。同僚に対する態度に問題があると、上席であるオルティやロータスから何度も指摘を受けているが、改めようとしない。態度はともかく仕事ぶりは素晴らしく、アルシァラの業績は社内でも一、二を争うほどに高い。
自分は優秀だと思っていて、優秀な自分が愛されることは当然で、また疎まれるのも当然だと考える。
たとえ誰かを好きになったり、凄いと思って尊敬するようなことがあったりしても、それを素直に認める事はない。
甘いものや果物を好み、甘い紅茶やデーツが好物。しかし摂り過ぎないように心がけている。商会の中で最も健康的な生活を送っているのはアルシァラであろう。
派手で目新しい事が好きだが、下調べや、基礎を整える事を疎かにはしない。芯のしっかりした努力家で、泥臭い事は好まないが、嫌ってはいない。アルシァラは、影で努力をしている事を知られること、それを他人に吹聴することを嫌うのである。

戦闘

戦闘は不得手で、戦う事には慣れていない。荒事は周囲に任せる。荒事にならないように事を運ぼうとする。そして、その手腕に長けているがために、アルシァラは商会内で、対外的な立場に立っている。

ストーリー

・クローバー貿易商会の一員として登場する。トヲラス的な物の考え方、あるいはトヲラス天狗の有り様を示す立ち位置にある。

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アルシァラは、トヲラスにおいて名家と名高いヤマニア家の子息である。その彼がアルスという異国で、かつ裏社会に関わりながら暮らしていることには、彼の語りたがらない深い事情がある。

ヤマニア家の当主である彼の父親は、世継となる男児を欲し、妻を何人も娶り(トヲラスでは、妻を複数人娶ることが可能である)子を産ませた。しかし産まれてきたのが女児ばかりであったため、屋敷の使用人であった地潜の娘さえ孕ませた。その子がアルシァラである。
念願の男児ではあったものの、アルシァラの背の翼は姉たちの白く輝くそれとは異なり、赤く燃えていた。トヲラスの古い家では、性別と、翼の美しさは、家長となるに欠かせぬものであった。

悲しみに暮れた当主は隠居し、そのまま生涯を閉じたため、アルシァラは彼の遺した子の中で唯一の男児となった。それを良く思わなかったのが、アルシァラの姉と、その母親たちである。アルシァラよりも姉たちの方が、当主となるに相応しい翼を持っている。ましてや妾腹の子、汚らしい地潜の娘が産んだ子に家督を継がせるわけには行かぬ。
彼女たちは結託し、アルシァラと母を遠くアルスへ送り出し、事実上絶縁としたのだった。

母子を島流しにすれど、殺しはしなかったのは、血を分けた弟への、姉たちからの慈悲だったのかもしれない。
しかしながら、アルスの文化はトヲラスのそれとはあまりに異なる。アルスでは、背に翼持つ者は異形であり、忌避の対象であった。それだけではなく、トヲラス人そのものを排斥しようとする者もあった。

陰湿な悪意に曝され続け、アルシァラは自己保護としてのひとつの結論に至る。
己が疎まれるのは、己の優秀さ故だ。

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真っ当な働き口など、見つかろうはずもない。

トヲラス人とひと目でわかるアルシァラの容姿は、この国では重い枷となった。アルシァラの成人をきっかけにして、故国からの仕送りは絶えた。老境に差し掛かった母に無理はさせられない。アルシァラは死に物狂いで努力した。低賃金で食い繋ぎながらいくつもの資格を取り、翼を隠して就職活動に明け暮れた。そして、その度に失望した。いつだって、トヲラス人というだけで断られた。

アルシァラの試みはうまくいかなかった。優秀であることと、結果を掴み取れることに因果関係はない。それを思い知らされただけだ。結局、母親が出入りしていたトヲラス人コミュニティから、彼はクローバー貿易商会と繋がった。そして、会長であるオルティに見出されたのだった。決死の努力など、何ひとつ関係なく。
彼の碧い瞳は、アルシァラの何も値踏みしなかった。ありのままを評価した。それをアルシァラは、屈辱だと感じずにはいられなかった。

トヲラス天狗である以上、優れた存在であらねばならない。地潜より、人狼どもより、誰よりも。環境が、世界がそれを許さなかったとしても、その在り方が折れることだけは許されない。そうして我を通すアルシァラは、何度も失敗をした。その度に彼を助けたのは、見下して見下ろしてきた地潜、翼を持たないトヲラス人たちだ。

飛べもしない、重く引き摺るだけの翼が、何の価値を保証するというのか。こんなもの、何の役にも立ちはしない。

羨ましい。こんなものに縛られていないお前が。腹立たしい。お前に追いつけない全てが。馬鹿馬鹿しい。この感情を捨てられない心が。未だ故郷の空に囚われている自分自身が!

屈辱感と劣等感に追い立てられながら、それでもアルシァラは彼の背を追う。自分より優秀な誰かの存在など、邪魔なだけだ。俺は取り巻きどもとは違う。お前をいずれ倒す。いずれ追い抜く。

——その碧い瞳に誰よりも、鮮烈に翔んでみせる。