概要
翼の女神、白薔薇の君こそ唯一の神であるとする女神教が根付き、独自の文化が強い宗教国である。女神教の最高指導者が国家元首を務めている。荒野・砂漠が国土の8割を占め、狩猟を中心とした文明に国家の起源があると考えられている。
現在は産油国として名高い。主要な産業は石油、宝石、貴金属、IT産業など。
人種
トヲラス人(トーリア)は、白髪や金髪のような淡い髪色と、対照的な褐色の肌が特徴である。男女問わず睫毛が長く、目鼻立ちがはっきりとしている。
翼を持つ者を「天狗」、持たぬ者を「地潜(ジムグリ)」、翼を持たず、獣のような特徴を備えた者を「人狼」と呼ぶ。それぞれ人口比で30%、60%、1%未満程度存在する。
土地の気候、環境の厳しさから、トヲラスは厳しい階級制度を敷いている。
天狗は地潜や人狼を虐げ、搾取することを許されている。髪の色、翼の枚数や美しさでもより優れた者が定められ、より優れた者はより良い扱いを受ける。
髪や羽毛の色は金、銀が少なく、白色、灰色、茶色系は比較的に多い。
特に白金色は少なく、白金(プラート)は女神教のシンボルカラーでもあることからも、非常に有り難がられる。白金>金=銀>白>灰=茶の順に階級が定められる。
天狗の翼は女神の加護や寵愛を示すと考えられている。羽毛の色は多くの場合、髪の色と同じものになる。まれにまだら模様になる者もある。
何臂何対の翼を生じるかは個人差があり、より多く、より大きく、より美しい翼が良いものとされる。天狗がこの翼で飛ぶことはできないが、どう云う理屈であるのか、体内に”たたむ”ことはできるようだ。
・天狗
トヲラス国では生まれついての特権階級である、背に翼を持つ者たち。
彼らの翼はプライドの象徴であるので、”たたむ”ことは少ない。
翼は血肉が通っている、列記とした身体の一部。柔らかくよくしなる、鷲や鷹などの猛禽類のような質感、形状をしている。雨覆羽と風切羽の色が切り替わる者もいる。飛ぶことはできないが、羽ばたくことは可能である。季節の変わり目には換羽する。
刺繍やビーズをあしらった豪奢な民族服、ターバンなどを身に付けることを許されている。
宗教関係や政治家、会社役員などの仕事は天狗だけが就くことを許された仕事である。
特に宗教関係職は見た目にも求心力のある、立派な翼や、特別な色合いの髪などを持つことを求められる。
宗教
女神教が盛んであり、国教である。
女神教に帰依しないものは国民として認められず、国外退去を言い渡される徹底ぶりである。トヲラス人は生まれると同時に女神教の祝福を受け、幼少期から女神教をベースとした教育を受けるため、洗礼を受けず、帰依もしない者は、幼少から国外で過ごしているような者ばかりである。
女神教は、トヲラス語で「デム・ア・ラエ」(翼の女神)と呼ばれる主神を持つ一神教である。
女神教の教えを伝える者は帥父・帥母(すいふ、すいぼ)と呼ばれ、シルク製のシンプルな礼装を纏う。多くの弟子を持つ者は大帥父・大帥母などと呼ぶこともある。最高指導者として教義を纏める者を元帥とする。
元帥は女神教の教えを教典から読み取り、広く国民に知らしめる役割を持つ。元帥は教義を解釈して、時流に合わせ公示する(福音)。女神教の教徒であれば、この福音には従わねばならず、福音は元帥の発音によってのみ告知・取り消しを行う。
女神の名において、婚礼や葬儀、子の祝福、洗礼などあらゆる行事が帥父母によって執り行われる。年に一度、夏至の日に女神の祭日があり、その一週間前から日中の断食・断水をする。祭りの当日は、日が落ちてから花火を上げて祝う。
荒れた国土を持つトヲラスに於いては、空は恵みをもたらすものでもあり、恐怖の源でもある。
その天空を人格化したものが翼の女神である。恵みをもたらす観点から、彼女は鳥獣(獲物)の守護神としても考えられた。彼女の領域である「空」は女神教に於いて神聖なものであり、翼はその領域へ渡るための寵愛であると考えられた。故に、背に翼持つ天狗は女神に愛された者として定義され、狩猟されるものである獣の特徴を持つ人狼は、女神の加護がないものとされ、嫌悪された。
・トヲラスの婚礼
女神教の婚礼は、家によって決まる許婚が殆どであり、翼の有無や髪の色などの階級を考慮し、お互いの家が納得する形で婚約を行う。青年の家は持参金を持たせ、娘の家は家財道具を持たせることが一般的。持参金や家財は家畜(山羊、羊、馬)などの資産で代替されることもある。
天狗同士での婚礼であれば、衣装は華やかなものを用いる。白を基調とした布を、女神教で尊ばれる色である金や緑色の糸、宝石や貴金属で飾る。刺繍の図案には翼や草木、星など、目出度いとされるモチーフが使われる。
式の当日は花婿が花嫁の家まで赴き、花嫁を馬や車に乗せて連れ帰る。
地潜、人狼同士の婚礼であっても、形式はさほど変わらない。衣装はより質素なものとなるが、同じく白を基調とした布に、金や緑の糸で飾り付けを施す。近年では、青年の家から持参金を持つことは人身売買のようにも見えることから、持参金の代わりに家財道具を贈ることが多い。
許婚を持たないか、婚約を破棄したような場合、自由恋愛による婚姻も行われている。
その場合は、青年が娘を家から(合意の上で)連れ去るという形式が取られる。両家は青年と娘へ遣いを出し、2人が婚姻に合意していることを確認する。その後両家で女神へ礼拝を行う。階級差のある者同士の恋愛結婚などはこの形式で行われることが多い。
近年では、国そのものが開けてきたこともあり、そういったカップルは国外の宗教の形式を採用する者も少なくない。婚姻の肝となるのは家財道具の交換と礼拝であるため、その部分を押さえていればある程度は自由なようだ。
・葬儀
土葬が中心である。
女神教の敬虔な信徒の葬儀では、鳥葬を行う事もある。鳥類は女神の使徒と考えられるためである。
鳥葬の場合でも完全に遺体を野晒しにする事はなく、葬送の為に作られた台の上に、死者の心臓をのみ捧げ、鳥が持ち去るのを待つ。その後、遺体を埋める。
帥父母は死者の安寧を女神に祈る。葬儀にはあまり時間を割かないことが一般的であり、死者の地位にかかわらず、シンプルである。
死者を悼む時には線香を焚き、煙を空へ送ることで、女神と、その袂にある死者の魂へ悼む気持ちを届ける。
・言語
トヲラス公用語(トーリアナ)と翼語(サントリナ)の2種類がある。
一般的にはトヲラス公用語が用いられる。翼語は語彙の多くを公用語と共有する、天狗だけが使うことを許された言葉であり、宗教的な意義が含まれる。天狗同士の会話では翼語が使われることが一般的である。
例えば、「翼の女神」は公用語では「デム・ア・ラエ」、翼語では「ヌルフ・アリアルハ」。「天狗」は公用語で「シエルトリアナ」、翼語では「シエルプラート」である。
「デム・ア・ラエル・ウル・ハジク」とは、「翼の女神の加護があるように」という意味になる聖句であり、祈りの末尾によく用いられる。
子供の名付けには、星や植物の名前をつけることが多い。
星は女神の領域にある、非常に尊いものである。植物は、女神の恵みである雨がなければ育たない。それぞれ女神教で好まれるシンボルである。
公用語で「Yes」に相当する語は「Ar(アール)」であるが、星を意味する言葉は「Al(アル)」である(このため、アル-という名前の者が非常に多い)。この2語の発音、聞き分けは母語でない者には難しく、トヲラス語初級者の壁と言われている。
・トヲラス翼彫紋
地潜は、背に翼の刺青を彫る。翼は女神の加護の象徴であり、そのシンボルを彫ることで加護を授からんとするもの。人狼はこの彫り物を公的に許されていない。
シンボルはトヲラス翼彫紋(トヲラス・トライバル)と呼ばれ、近年では芸術としての評価も高い。本来はまじないの意味のある紋様だが、若者はファッションとして彫ることもある。
一般的に、子が生まれた時、7歳の折、成人の折の3回に分けて模様を彫る(より緻密に彫り重ね、増やしていく)ことが多い。
・羽化症
トヲラス人によく見られる症例であり、かつては風土病であるとされていたもの。
現在は、「トヲラス系鹿狼族に非常によく見られるもの」であり、鹿狼族の血筋であればトヲラス人の血筋でなくとも発症の可能性があるものと考えられている。
発症すると、体の至る部位に羽毛状の組織を生じる。この変異は体内組織も例外ではなく、多くの患者は肌の内側に発生した羽毛が神経を圧迫する苦痛から逃れるため、自ら命を絶つ。
患者の終末期には、臓器が羽毛状の組織に変異することで、多臓器不全による死を免れない。このため、羽化症は死病であるとされる。
羽化症を発症するのは、天狗を除く、地潜と人狼のみである。このことから、かつて女神教では、「羽化症は、翼を持たず、女神への信仰が薄い者への罰である」とされた。