Nam Wolfgang
概要
今を生きている、かつての死にたがり。
軍人のメンタルケアを行う職にあり、日々くたびれた軍人達の話し相手をして過ごしている。かつては大戦で隊付きの衛生兵として働いていたが、その大戦で左目、左腕、右脚を喪ったことで、戦場には出られなくなった。
そもそもナムが戦場へ行ったのは、その場で命を捨ててしまうためだったのだ。死は衆生の救いであると信じていた彼に突きつけられたのは、冷たい銃口でも冴え冴えした切っ先でもない。人を生かし、救わんとする。それを信念とする男、シノノメ・ナダレとの出会い。それこそ、ナムの人生を大きく変えたものだった。
性格、気質
理知的ではあるが、ダウナーな思考の持ち主である。必要以上にネガティヴな感情を抱くことは無いものの、ポジティブに物事を考えることができない。とはいえ、彼を生かしているのは信念である。なんとなく、だとか、どうせ、だとか、そんな曖昧な理由で彼は生きていない。生きることにも、死に焦がれるのも、ナムにはちゃんと理由がある。
好きなもの、嫌いなもの
嗜好品は酒より煙草を好み、甘いものよりは辛いものを好む。趣味らしい趣味もないが、人の話、人生の物語を聞く事は好きで、ある意味では仕事が趣味と言える。
昔はそれほど好まなかったが、大戦を経たナムは本を読むことが好きになった。読書は片手でも出来る、という事が何より大きい。
戦闘
大戦の折に交戦経験がある程度で、戦闘訓練等は特に受けていない。そもそもそのような状況に陥ったとして、ナムは生きていくために戦うという事がないだろう。
価値観、死生観など
死は安寧であり、救いである。生きるという事は地獄の淵を泳ぐようなもので、基本的には苦痛だ。より良く生きようとしなければ、より良く生きられる事はない。——これらの考え方はナムの中で非常に強固であり、幼い頃から強く実感していることでもある。
死がおそろしいと思った事は無いが、生きていくのがおそろしいと思った事はある。ではなぜ、もっと早くにひとりでにさっぱりと死んでしまわないのだろう。ナムは未だ、その答えを見つけられていない。ただ今は、自分が生きている事で救われる人がいるのだから、生きても死んでも変わりないなら、その人の為に生きようと思っているだけにすぎない。
生まれ
平凡な家庭に生まれたナムだが、物心つくより以前から母親共々、父親からの暴力に晒されてきた。母親は常に父親の暴力からナムを庇い、ナムを守ろうとした。泣いたり反抗したりすればするほど、父親の暴行は激化したため、ナムも母親も、ただじっと耐える事しか出来なかった。それでも殴られ、蹴られ、物を投げられ、ナムは母親が啜り泣きながら犯されているさまを目の前に見せつけられてきた。
それが日常と化して、長い時間が過ぎたある日。スクールから帰った少年ナムが見たのは、風呂場で手首を切って絶命している母親だった。降り注ぐシャワーの音が雨音のように甘かった。湯気は雲のように柔らかかった。数多の傷や火傷や痣を抱えていても、眠るように目を閉じた母は美しかった。微笑んでさえいた。ナムは死によって、母親が救われた事を理解した。
母親の死をきっかけに、父親が母子に施してきた暴力が明らかになった。ナムは保護され、父親と引き離された。しかしナムには、最早何の救いも必要が無かった。——人はいずれ皆死ぬ≪救われる≫のだから。
家族、対人関係
・ナダレ
元同僚で、親友で、恩人ではあるが、今は疎遠にしている。ナダレとの間柄は一言では割り切れない。平たく言えば、生きる理由1号である。
・アリエル
記憶を失った彼女に、最初は主治医というか、話し相手として接していた。今は生きる理由2号となった。
・ダレン
上司。お互いナダレの知己ではあるが、ナムとしては業務以上に関わった事は無い。
プロフィール
血 族:鹿狼系混血
年 齢:39歳
誕生日:早秋
身 長:180cmちょい
体 格:やや細いが健康的
口 調:ダウナーで斜に構えている
「死んだところで誰も気に留めやしない。なら、生きていたって誰も気に留めやしない。けど、生きてくれ、って奴はいる。なあ、それだけじゃ不満か?」
「はあ、まぁ、それがお前のしたい事ってんなら、俺が断る理由はないんだが……なぁ。あんまり人の事、困らせんなよ。」
ストーリー
・ナダレとは戦場で出会った。左眼と左腕と右脚を機関銃に撃ち抜かれたナムを、ナダレは何とか救い上げたが、ナム以外の誰も救えなかった。
・ナムは一命を取り留めたが、ナダレは精神を病み、薬に手を出してしまう。不本意とはいえ、死にものぐるいで自分を助けてくれたナダレに多少の感心を覚えたナムだったが、薬の事を知って激昂する。
・人を生かしておいて、自分は緩慢に死のうとするナダレの事が許せなかったが、ナダレの苦悩も分からないでは無かった。腹いせに死んでやろうかとも思ったが、おそらくナダレは再起不能になるだろう。それを思えば、ナムには生きる理由が出来てしまった。
・ナダレにナムの面倒見を頼まれたダレンは、ナムを本部のメンタルケア担当に据える。
・アリエルが鹵獲され、ナムの担当になる。
・アリエルの記憶を取り戻す旅に付き合い、彼女を見守り続けた。
・結局、ナムには死ぬ理由よりも生きる理由のほうが重くなってしまった。だらだらと悪態をついては長生きしてしまい、結局、一人娘に見守られながら穏やかに死を迎えたのは90歳を少し超えた頃のことだった。