Dragons
「竜種」と聞いて、君の中に思い浮かぶものはおそらく”これ”だ。
強大な爬虫類の姿をした怪物、翼持つ蛇。知能が高く、ブレスを吐き、魔法を操る幻想の生き物。
ええと……そういうファイナルオオトカゲファンタジーが無かったわけじゃあないんだけどね。そのtheドラゴンは、一旦傍に退けておこうか。ここからは僕らの常識に基づいた、学術的な話をしていこう。
概要
広く「竜種」「竜族」として知られる種族は、ヒトの形を模した擬態を行う「可変的な生命体」である。第五の人類種として数えられているが、人類種とはその生命の在り方が根本的に異なる。
特徴
竜種の最も顕著な特徴は、その生命基盤を循環器系に依存していることである。
人類種が神経系を基盤としてその生体を構築しているように、竜種は循環器系を基盤としてその生体を構築する。発生の初期段階においても、人類種は神経系を優先的に形成するが、竜種は循環器系を優先的に形成する。特に、心核と呼ばれる器官である。これは人類種やその他の生物において心臓と呼ばれる器官に相応しているが、単なる循環器、ポンプではない。竜種の生体の構造全体を規定する中枢であり、制御中枢である。他生物の骨髄のような役割をも兼任している。
心核、およびそれを中枢とした優れた循環器系を持つことが、竜種の身体的な強靭さに繋がっている。また、竜種の血液細胞は、それ自体が幹細胞である。心核から作り出される細胞は循環器を通して全身に供給され、供給先で任意の細胞へと分化する。
この構造により、竜種の体の中身、すなわち皮下や内臓の組織の生成は個体による差が著しい。特に内臓の構成においては、配置や個数までもが個体により異なる。少ない、あるいは生成されていない器官もあれば、過剰に生成されている器官も存在する。ただし最低限共通する構成として、循環器系を除けば、目や耳などの「感覚器官」、および口腔や消化管などの「消化器官」に相当するものが生成される。その他の臓器や構造は明確に生成されないことも珍しくなく、また、それらの欠落が竜種の生命活動に影響を及ぼすことはない。竜種の生命活動の中心は心核であり、それが健全であるかぎり竜種は生命として健全である。極端な例として竜種は、全身のほとんどを損失したとしても、心核のみで自己復元が可能である。
神経系に依存しない生態を持つため、電気信号による情報伝達に代わり、血液細胞による情報伝達を行う。心核の作用により、竜種は空間を総合的に把握し、周囲の状況に反応する。その上で竜種は、視覚や聴覚、嗅覚などを(それらが生成されている場合)補助的なセンサーとして使用していると考えられている。血液細胞による情報伝達は、電気信号のそれより比較的緩やかな伝達速度しか持たない。しかし、竜種の循環器は人類種のそれを大きく上回る性能を有するため、知覚および反応において、顕著な遅延が観測されることはない。むしろ神経系に依存しないことで、局所的な損傷や断裂が発生した場合も、滞りなく情報伝達が行われる。さらに、その損傷も即座に回復することが可能である。
生態
竜種が家族や社会を形成することは稀である。生命力に優れ、最低限の栄養摂食で造血し、成長あるいは回復することが可能であるためだ。多少の負傷は気に留めることもない。
心核を損傷することによる死のほか、竜種は自らの意思で心核を停止し、死に至ることがある。
また、繁殖することを重視しておらず、竜種同士が番うことも少ないため、その個体数は生命力の割に増え過ぎるということはない。竜種はむしろ人類種のよき隣人であることを望む傾向にあり、生殖の相手としてではなく、単に家族、友人のような関係性としての人類種のパートナーを持つこともある。
竜種の繁殖行為は、彼らの血を体内で物理的に混ぜることによって行われる。混ぜられた血液細胞から心核が発生し、それを覆うように凝血することで、新たな竜種の「卵」が形作られるのだ。竜種同士でなくとも、究極的にはひとりであっても、竜種は単為生殖で子を成すことができる。
単為生殖の場合は、子は基本的に親と同質である。いかなる理由によるものかは不明だが、そうした場合、親は卵を残して自発的に心核を停止する。
人類種をパートナーとした竜種は、ごく稀にではあるが、人類種との繁殖を望むようだ。極めて少ない例ではあるが、竜種がパートナー女性の胎内に卵を構成させた事例がある。また、その例では単為生殖の場合とは異なり、親が自発的に心核を止めることはなかったという。
人類種側が男性であった場合も、竜種同士が番う時のように、竜種の体内で卵を生成したようだ。ただし、この場合は生まれる子が竜種であるとは限らないようだ。竜種の誕生例もあるが、人類種としての性質しか持たないうえ、一部の臓器が完全な形ではない状態での誕生例も報告されている。
能力
竜種の心核は、自身の血液細胞を本人の自在に操り、成形する機能を持つ。これは「血の魔法」と呼ばれ、竜種であれば生まれつきその扱い方を知っているものである。
尾や翼、付属肢のような外部器官を一時的に生成することができる。また、日常的には体の一部位に血液を集めることで、筋力を高めるような使い方をしていると考えられている。
竜種はその血の魔法によって、血液細胞を体外に取り出し整形した、特殊な武器を扱う事がある。これを武器の形態問わず「魂の剣」と呼ぶ。
しかしながら、「血の魔法」の扱いや「魂の剣」を作り出す技術は個体差が大きい。竜種が社会を形成しないことで、そうした能力の扱い方が、竜種の間で伝達されていない可能性が指摘されている。
立場
生命力に優れ、また、力のうえでは人類種の及ばない存在であることから、竜種は多くの国で法律による保護を受けていない。およそ人権と呼べるものを認めていない場合もある。
竜種は潜在的に危険性を内包している。竜種による人類種への傷害は容易であり、被害が大きくなりやすい傾向にある。そのため竜種が人類種へ加害した場合、多くの法律では基本的に竜種に責任を帰属させる。こうした状況から竜種の雇用は極めて少なく、社会において居場所を与えられていない状態である。
このため、竜種は概ね裏社会に身を置く。あるいは、「竜種の自活」を目的として掲げる「竜十字騎士団」のような非営利団体に身を寄せる。そして、彼らの強靭さを活かし、傭兵や護衛職としての雇用を目指すこととなる。
こうした社会的状況、立場にありながら、竜種は人類種を憎むどころか、愛してさえいるように思われる。無論、すべての竜種がそうというわけではない。人類種に強い嫌悪を示し、人里を離れた者も少なくはない。
しかし、竜種は誇り高い反面、どうしようもなく愛情深い。特に人類種を愛し、パートナーとした場合。竜種が人類種を裏切り、傷つけることはない。大抵の場合、心を通わせた人類種の生命が先に尽きることとなるが、それまでの間、竜種はパートナーの側でパートナーのために自身の全存在を尽くす。竜種なりのやり方で愛情を表現し、竜種なりにパートナーを支える。たとえ人類種がそれを裏切ったとしても。それは、死がふたりを別つまで続く関係性となる。
秘匿
……さて、竜種というのがいかなる存在か、君にも理解してもらえただろうか。
ここからは少し、神秘のベールを捲る話だよ。
起源
まず、そのように異なる生き物が、なぜ僕らの隣人のような顔をして、僕らの側で暮らしているのか。その疑問は当然だ。そして、その疑問には明確な答えがある。
竜種は、そもそもこの星で生まれたものではない。その祖である竜王——王権があったわけではなく、最優の竜(種)としてそう呼んでいるだけだけど。竜王は、いずこの涯からか訪れた「星海の獣」と呼ばれるものだ。
竜王は、僕らを生み出した存在……まあ、いわゆる神様みたいなものだから、神と呼ぶことにしよう。神と交渉して、この星で暮らすことになったんだ。その過程で揉めたんだろう、神は竜王に約定を誓わせた。
——竜種は人類の五番目の種族として、ヒトの似姿を取ること。
これは強い制約的効果を含んだ誓約であり、竜王の裔である竜種は、その誓いを破ることができない。心核がそれをおのずと拒む。心核は竜王の一部であり、竜種はそれを連綿と受け継いでいる、というわけだ。だから、竜種はいつまでも不恰好で中途半端な擬態のままで生きている。爪を剥がれ鱗を削がれ、翼を捥がれ牙を抜かれ、角を折られてヒトのふりをしている。
そうとも、竜王は、君が想像した通りの姿だった。
//どうせあのロクデナシのことだ。竜王のことも、可哀想な大精霊と同じように捕まえて、ヒトの素材にしようと細かく刻んだんだろう。
//ところが竜の生命はヒトのそれとかけ離れすぎていて使えなかった。致し方なく、竜に備わっていた誓約機能で縛り上げた。二度と断片が竜王を構成することがないように。ってオチじゃない?
本質・構造
つまり竜種っていうのは、やっぱりドラゴンなんだよな。一生懸命にヒトに擬態してるけど、その在り方も本質も、人類種とは違っている。
彼らは全て竜王の一部だ。全ての竜種は、心核に竜王の断片を宿している。そして、竜種が子を成せばそれは子に引き継がれる。仮に命を落としたとして、竜王の断片だけは潰えることがない。それらは竜王の自己復元性により、集合し結合する性質を持つ。要は、付近に存在する別の竜種へ「結合」するんだ。本人すら気づかないうちに。
竜種が積極的に番わないのは、竜王に近づくことを心核が本能的に避けるためだ。心核は誓約を破ることから離れようとする。不可抗力による結合とは違う、と判断されるんだろうね。
だから、すべての竜種から心核を集めれば、理論上は竜王が再構築される。それは「竜王」という個人の再生ではなく、現象の再現に近い。
//まあ、僕はそういうルートを見たことがある。だからあれは、どっちかっていうと現象、ていうか災厄、災害だなって思ってるんだ。
//どんな展開でも、竜王は神を憎み(わかるよ)、人類種を嫌悪して滅ぼそうとした。まさに、それは嵐みたいなものだったよ。
誓約について
これは竜種に元来備わっている機能のひとつだ。彼らは何らかの約束を他人と交わすとき、それを非常に重い誓約として認識する。
この誓約は彼らの心核に影響を及ぼすと考えられている。竜種本人、あるいはその誓約を結ぶ相手が望む、望まざるに関わらず、竜種が誓約を破ることは許されない。心核がおのずとそれを避けようとする。強引にそれを破ることはできるが、まさしく命と引き換えになる。だから竜種は約束を違えない。否、違えることができないのだ。
軽々しく竜の手を取ってはいけない。それは互いにとって致命となりうることだ。
補足
竜王は星海から来た、ってことは。
つまり竜という存在は特異でない可能性があるってことだ。それはまだこの星を訪れていないだけかもしれない。竜王は竜たちの最後の生き残りとして、住み良い場所を探していたのかもしれない。それは僕の観測の範囲外のことだから、どう転ぶかはわからない。
//個人的な希望を述べるなら、どうか竜王には彼らの同朋がいてほしい。
//竜種は全員がそうというわけじゃないけれど、優しく、誇り高く、愛情深く、誠実だ。誓いを守り、ヒトのよき隣人として、不完全な擬態を続けている。
//それが竜王の持っていた、竜としての本来の特性だというなら……どうか、竜王が孤独でないといい。
//ヒトである僕にそんなことを願われる筋合いはないだろうけどね。
